胃がんにはピロリ菌感染が深くかかわっています。ピロリ菌感染のない人から胃がんが発生することはごくまれです。また、ピロリ菌感染によって胃粘膜の萎縮が進むほど、胃がんが発生しやすくなります。胃粘膜の萎縮の程度は、胃から分泌されて消化酵素ペプシンのもとになるペプシノゲンという物質の血液中の濃度を測定することでわかり、基準値以下の人は、6~9倍胃がんになりやすいことがわかっています。
 ABC検診とは、ピロリ菌感染の有無(血清ピロリ菌IgG抗体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノゲン値)を測定し、被験者が胃がんになりやすい状態かどうかをA~Dの4段階で判定する新しい検診法です(表1)。血液による簡便な検体検査であり、特定検診(メタボ健診)などと同時に行なうこともできます。
 ABC検診はがんそのものを見つける検査ではありません。胃がんになる危険度がきわめて低い、ピロリ菌の感染がなく胃粘膜が健康な人たち(A群)を精密検査の対象から除外し、ピロリ菌に感染(またはかつて感染)して胃粘膜に萎縮のある人たち(B~D群)には、胃がんの存在を確かめる精密検査(内視鏡検査等)を受けていただくものです。近年、ピロリ菌に感染していないA群の割合が増えており、多くのA群の人たちが内視鏡による精密検診を受けないで済む点が大きなメリットです。
 ABC検診は、 浅香正博・北海道大学大学院医学研究科がん予防内科特任教授(日本ヘリコバクター学会理事長)が勧める「胃がん撲滅プロジェクト」の一環としての胃炎検診で、肝炎検診に準ずるものです(表2)。感染症由来のがん対策は1次予防を中軸とすべきです。

三位一体の胃がん対策

 胃がんは、肝炎ウイルスによる肝臓がんやHPV(ヒトパピロ-マウイルス)による子宮頸がんと同様、ピロリ菌による感染症由来のがんで、ピロリ菌を除菌することで胃がんの発生を3分の1に減らせます。私たちは、単に胃がんによる死亡者数(率)の減少を目指すだけではなく、除菌治療で胃がんの発生を予防し(1次予防)、精密検査で早期胃がんを発見し(2次予防)、内視鏡治療で完治させることを重視します。「ABC検診により、胃がん発生の危険度がわかった人は専門医で内視鏡検査やピロリ菌除菌を行う。そして内視鏡検査で発見される早期胃がんに対しては、低侵襲の内視鏡治療を行う」ことこそが、ピロリ菌時代の理に適った胃がん対策であると考えます。
 消化器内視鏡はすでに全国に普及し、従事する医師の数も年々増加しています。また、日本ヘリコバクター学会は2009年度よりピロリ菌除菌に対する認定医制度を開始しました。私たちは、今こそ「ABC検診」「ピロリ菌除菌」「消化器内視鏡」が三位一体となった胃炎・胃がん対策を強く推進すべきであると考えます。
表2 肝がん対策と胃がん対策
肝がん対策 胃がん対策
肝炎ウィルス未感染者の除外(肝炎検診)
(C型・B型肝炎ウィルスチェック)
ピロリ菌未感染者の除外(胃炎検診)
(ABC胃炎チェック)
画像検診
(超音波検査、CT検査など)
画像検診
(内視鏡検査など)
専門医による囲い込み 専門医による囲い込み
インターフェロン治療
(肝がん一次予防)
ピロリ菌除菌治療
(胃がん一次予防)
経過観察による肝がんの早期発見
(肝がん二次予防)
経過観察による胃がんの早期発見
(胃がん二次予防)