十二指腸腫瘍は近年その発見頻度が増加しておりますが、その絶対数は極めて少なく、罹患率は全消化管腫瘍の数%にすぎません。特にその中でも癌になるものは少なく、十二指腸癌は希少癌に分類されています。2021年に外科系の学会が中心となり十二指腸癌診療ガイドラインが刊行されましたが、内視鏡手技に関するデータは限定的であり未だに治療法が確立されていないのが現状です。しかし、外科治療が必要となった場合には膵頭部十二指腸切除という極めて侵襲の大きい治療になってしまうことから、早い段階で内視鏡治療を行うことの重要性が再認識されております。一方で、十二指腸における内視鏡治療は、大腸とは異なり局注してもキルクリング襞に沿って局注液が拡散してしまい良好な隆起が得られないことや、消化管の屈曲のため操作性が悪いこと、筋層が極めて薄く穿孔し易いこと、膵液などの消化液の存在により出血や穿孔をきたし易いことから、治療の難易度や偶発症のリスクが極めて高く普及の妨げになっていました。しかし十二指腸腫瘍の特性に合わせて、病変のサイズや粘液形質などを加味して治療戦略を立てることにより、十二指腸においても許容できる治療成績を挙げられる様になってきております。これまでに蓄積した我々の多数例の検討により、脂肪の沈着と考えられるWOS(white opaque substance)(注1)が陽性かつ13mm未満の腫瘍は、ほとんどが低異型度腸型腺腫であることが判明しており、これらの病変に関しては一次医療機関においてもCFP(注2)やCSP(注3)での対応が可能と思われます。一方、WOS陰性あるいは13mm以上の腫瘍においては悪性化のリスクがあるため、CSPではなく粘膜下層も含めて確実に取れる手技での治療が望ましいと思われます。一般的に、20mm程度までの病変であればEMRもしくはUEMRで対処可能ですが、屈曲部などの難しい病変の場合は、部分局注を追加したPI-UEMR(注5)での治療が望ましいと思われます。しかし、20mmを超える病変に関してはスネアを用いる手技では不完全切除となる可能性が高いため、ESDやD-LECS(注6)での治療が必要となります。十二指腸ESDに関しては、十二指腸病変の見た目が大腸LSTに類似しているものが多いため、大腸ESDと同様のものと勘違いしている方がおられますが、十二指腸ESDは全く別次元の治療になります。我々は十二指腸ESDをより安全・確実に実施するためにWater pressure method(注7)を、また大型の切除創を確実に縫縮するためのString clip suturing method(注8)を開発し、従来は不可能だと思われていた大型の病変でも問題なく治療ができるようになりました。しかし、治療手技そのものも術後管理も全く大腸ESDとは異なり、スムースにESDを終えたとしても重篤な遅発性偶発症が起こりえるため、きちんとそれを認識して胆膵内視鏡医や胆膵外科医のバックアップ体制が得られる施設でのみやるべき治療手技と考えられます。またD-LECSに関しても同様で、習熟した外科医がいない状況では決してやるべきではなく、またD-LECSで治療可能な病変は、習熟した内視鏡医であれば問題なく内視鏡単独での切除・縫縮および術後管理が可能であるため、適切に適応を見極め自施設のみでの治療にこだわらず、ハイボリュームセンターへの紹介も含めてベストな選択肢を患者さんに提供すべきと考えられます。幸い発見される多くの病変は小型の腺腫であるため、確実に診断ができれば一次医療機関でもリスクの低いCSPでの治療が可能と思われます。しかし通電が必要になるEMRやUEMRは偶発症のリスクが高くなるため、胆膵チームや外科チームが揃っている地域中核医療機関で実施すべきものと考えられます。一方で、ESDやD-LECSが必要となる大型病変は、絶対数も限られているため不用意に手を出さずに、十分な経験を持つ先進医療機関に症例を集約すべきものと思われます。
<編者注釈>
注1)WOS(white opaque substance)…白色不透明物質
注2)CFP …Cold forceps polypectomy、生検鉗子等の内視鏡鉗子を用いた摘除法。
注3)CSP …Cold sunare polypectomy、高周波装置を使わずにスネア(鉗子)で機械的に粘膜を切除する方法。
注4)UEMR …underwater EMR、浸水下で病変の内視鏡的切除法。
注5)PI-UEMR …UEMR combining partial submucosal injection
(著者論文「Dig Endosc. 2022 Mar;34(3):535-542. Yusaku Takatori, et al.」より)
注6)D-LECS …Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery for duodenal tumors; D-LECS、十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術のこと。
注7)Water pressure method …浸水下で内視鏡の送水機能を用いて、水の圧力と浮力で粘膜下層を展開し、粘膜フラップの作成と粘膜下層への潜り込みを行う手技のこと。WPM。
注8)String clip suturing method …クリップ縫縮術のこと。(GHN100号本文図参照)