本邦における萎縮性胃炎の主たる病因はピロリ菌感染です。一方で、ピロリ菌感染を伴わない萎縮性胃炎もあります。その代表が自己免疫性胃炎(AIG)です。従来は稀な疾患とされていましたが、最近の報告では、内視鏡検診受診者の0.5%程度にAIG症例があるとされています。内視鏡検診での胃がん発見率は0.1-0.3%とされていますので、AIGは胃がんより高頻度にみられる疾患といえます。現在では、AIGは全ての胃がん検診従事者が正しく理解しておくべき疾患となっています。…AIGは、胃壁細胞のプロトンポンプを自己抗原として起こる炎症が主たる病態であり、細胞性免疫が主たる役割を演じるとされています。ちなみに、AIGはA型胃炎と呼称されることがありますが、A型胃炎のAは、AutoimmuneのAではありません。A型胃炎という用語は、Strickland & Mackayの胃炎分類(A型胃炎の対語はB型胃炎)に基づく用語であることを知っておいてください。…A型胃炎はAIGに、B型胃炎はピロリ菌感染胃炎にほぼ相当すると考えて良いです。…AIGの発見契機の多くは、内視鏡所見です。AIGでは萎縮領域は胃底腺領域に限局しており、ピロリ菌感染胃炎と異なる分布を示します。…内視鏡所見から全てのAIGを正確に診断することは困難です。…AIGの診断には組織検査(生検)や、血清学的検査が重要になっています。…著明な胃酸分泌低下をきたすことが特徴です。このため血清学的には、血清ペプシノゲンI、I/IIは低値を示し、血清ガストリン値は著しい高値を示します。抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性を示すことも診断にとって重要です。組織学的には、腺窩上皮直下ではなく胃底腺中層(壁細胞周囲)に炎症細胞浸潤が認められます。…AIGを診断する最も重要な意義は、特徴的な合併症があることを認識することです。…AIG症例では常に多腺性自己免疫症候群の存在を念頭に置く必要があります。…ガストリンの測定方法についても混乱がみられています。…今後の課題:ピロリ菌感染率のさらなる低下と、AIGに関する知識の向上に伴い、臨床診断されるAIG症例が増加してくることが予想されます。専門医のみならず、一般内科医においてもAIGを正しく理解しておくことは極めて重要です。実臨床においては、客観性、再現性が担保された自己抗体測定法の開発が重要となっています。