はじめに:高崎市では2017年度より胃がんリスク層別化検診(血清ABC分類)と胃内視鏡検診を同時に行うハイブリッド型胃がん検診を行っています。ハイブリッド型胃がん検診は血清ABC分類と胃内視鏡検診のそれぞれのウィークポイントを補う理想的な胃がん検診方法です。本稿では高崎市で行っているハイブリッド型検診の現状と将来展望について概説していきます。 血清ABC分類の利点と注意点: 胃がん検診における血清ABC分類の最大の利点は、多くの無症状者の胃がんリスクを簡便に層別化し、ピロリ菌感染者を拾い上げることができることです。一方で、血清ペプシノゲン値(PG法)と血清ピロリ菌抗体価(血清HP抗体)から成る血清ABC分類は、各々の偽陰性・偽陽性がしばしば問題となります。検診や臨床の場においてPG法で特に問題となるのが、PPI/P-CAB服用によるPG Iの上昇に伴うPG法の偽陰性です。これは、本来胃がんのリスクが最も高い血清D群が血清A群として判別されてしまう危険があります。また、血清HP抗体においては、以前に国内で汎用されていたEプレート‘栄研’H. ピロリ抗体Ⅱではカットオフ値未満(10 U/ml未満)にも現感染や既(過去)感染が混在している可能性が高いことが報告されました(いわゆる陰性高値の問題)。さらに、現在普及してきているラテックス法を用いたHP抗体キット(L タイプワコーH. ピロリ抗体・J、H. ピロリ-ラテックス「生研」)では、偽陰性は少ないものの、カットオフ値以上でも未感染や既感染がわずかながらも混在していることが報告されています。しかし、血清HP抗体検査は元々ピロリ菌感染者が多かった時代にピロリ菌現感染を診断するために開発されたものであり、ピロリ菌未感染者や除菌者(既感染者)が多数を占める現において、血清HP抗体価のみで未感染・現感染・既感染の三者を正確に診断することは困難であることを知っておく必要があります。 胃内視鏡検診の利点と注意点: 胃内視鏡検診の最大の利点は、本来の目的である胃がんの有無を直接確認できることです。また、胃のみならず食道や十二指腸などの悪性疾患に加え、良性疾患の拾い上げも可能性です。さらに、背景胃粘膜からピロリ菌の感染状態を判定する内視鏡的ピロリ菌感染診断(胃炎の京都分類4)、内視鏡ABC分類5))も普及してきており、内視鏡所見からピロリ菌の感染状態(未感染・現感染・既感染)を、かなり正確に推測できるようになってきました。しかし、胃粘膜はピロリ菌を除菌してからの経過期間や服用薬剤などの影響で多彩な所見を呈するため、感染状態診断に迷うケースも多々あるのが現状です。内視鏡的ピロリ菌感染診断の最大のウィークポイントとしては主観的な評価であるため熟練者間においても判定結果が必ずしも一致しないことが挙げられます。 総合的ピロリ菌感染診断法「ハイブリッドABC」: 客観的なピロリ菌感染診断法である血清ABC分類と、主観的な内視鏡的ピロリ菌感染診断法である内視鏡ABC分類5)を組み合わせた総合的なピロリ菌感染診断法がハイブリッドABCです(表1)。血清Aかつ内視鏡AであるHyb Aはピロリ菌未感染、同様にHyb B、Hyb Cはピロリ菌現感染、Hyb Dはピロリ菌既感染(自然消失後)、Hyb Eはピロリ菌除菌後と考えることができます。さらに、内視鏡検査により胃がんをはじめとする上部消化管の器質的疾患の拾い上げも可能であり、各自の胃がんリスクなども踏まえた適切なフォローアップを個別に行えることがハイブリッドABCの最大のメリットです。 ハイブリッド型胃がん検診の現状と将来展望: 高崎市の胃内視鏡検診の対象者は40歳と45歳の各節目と50歳以上であり、50歳以上では隔年で胃内視鏡検診を受けることができます。そして、初回の胃内視鏡検診時に胃がんリスク検診を行うこととしています。したがって、高崎市では前述のハイブリッドABCと同様に総合的なピロリ菌感染診断を加味した胃がん検診を受けることができます。このハイブリッド型胃がん検診は胃がんの主原因であるピロリ菌の感染状態も考慮した理想的な胃がん検診と考えられますが、今後解決していくべき課題もあります。その課題の一つが、各々の胃がんリスクに沿った適切な胃内視鏡検診の間隔の検討です。高崎市では毎年数千人規模の胃がん検診を行っており、ピロリ菌の感染状態と胃がん等の悪性疾患に関する膨大なデータがあり、そのデータを解析することにより適切な内視鏡検診の間隔を示すことも可能ではないかと考えられます。特に、胃がんのリスクが非常に低いと考えられるHyb A群に対して内視鏡検査を5年間空けても問題ないことなどが示せれば、より効率的で費用対効果も高い検診が可能になります。また、胃がんリスク検診は初回の1回のみの実施であるため、その後に除菌治療を行った場合など、血清ABC分類の結果が現状に即していないことも今後解決していくべき課題の一つです。