Ⅰ. はじめに: 本紙の第50号に、北海道の最南端の小さな町(福島町)の平成24年から5年間の胃がんリスク層別化検診(ABC検診)の導入・検診の実績を報告した。今回は、それから7年が経過したABC検診の現状と、その後に実施する胃カメラ検診の実情、胃がん発見数(率)および町のがん検診の取り組みを報告する。Ⅱ. 方法・結果: ABC分類は、当初は(株)SRLの「ABC検診」検査を使用していたので、ピロリ菌抗体価の陰性高値(Hp3以上、10未満)問題を考慮して、A群をA-1(Hp3未満、PGⅡ15未満、Ⅰ/Ⅱ4以上)とA-2(Hp3以上10未満、PGⅡ15以上、Ⅰ/Ⅱ4未満)に区別して実施していた。令和2年からは、(株)ビー・エム・エルのH.ピロリ抗体/EIA(Eプレート栄研)で検査しているが、統計上A群はA-1とA-2に分けている。12年間のABC検診受診者は総数1817人で、30歳以上で構成される町人口の約61%に相当する。年代別では60歳代が34.3 % と一番多く、30歳代の若者の5.8%が検診を受けた。ABC分類別では、A-1が36.8%で一番多く、C群が23.2% で、A-2とB群も17%台と多く、E群は2.7%である。ABC分類後の胃カメラ検査で発見された胃がんは、前回報告した後の平成29年から令和5年までの7年間をまとめた。A-2からE群までの胃カメラ検査対象者に声がけを行い、検診総数1208人中、B・C・D・E群から胃がん患者が20人発見された。C群10人、E群からは5人発見された。7年間の全体としてのがん発見率は1.65%の高率で、年度毎では2.79%の年もあった。12年間での各群のがん発見率をまとめると、C群が43.7%、D群21.9%、E群21.9%、B群12.5%の順であり、早期がんの比率は84.3%だった。A-1はもちろん、今までのところA-2からのがん発見は無い。福島町では、がん検診はすべて無料 で、「がんなんかに負けないがん基本条例」を平成27年に制定し、春と秋に集団の「がん検診」を実施している。受診率を上げるため個別検診も併用し、胃・大腸・肺がん検診と特定健診を同時に行っている。検診結果はABC検診受診者台帳にまとめている。Ⅲ. 考察: 国の胃がん検診対象年齢は50歳からだが、福島町は30歳代からABC検診をおこない、A-1以外の群と判定された受診者には除菌と胃カメラ検査を実施している。11年前から継続実施している「中学生のピロリ菌健診」を終了している年代との空白を無くするために実行している。受診者は50歳以上が総件数の80.2%を占めている。検診に関心が高い表れと思われる。群別の割合では、胃カメラ検査対象外のA-1が36.8%と一番多いが、今回の7年間では、A-1の町民の200人が胃カメラ検査を申し込んでいた。A-1は胃カメラ検査対象外という見解を町民に丁寧に説明する必要がある。A-2からE群までの胃カメラ検査対象群は63.2%で、町福祉課が胃カメラ検査案内をこまめに行うことで、がん発見数(率)も上昇している。前回の5年間の合計した発見率は1.18%だったが、今回の7年間では1.65%とアップしている。早期がんは84.3%の高率で見つかった。12年間に発見された32例の胃がんはC群が14人(43.7%)で一番多いが、今後は除菌後の検診者が増えるので、E群からのがん発見が多くなると予想される。本報告のE群の7人のがん患者は、除菌5~8年後の発見が多いが10年を経て発見された事例もあったので、2年毎の定期検査案内を工夫して行なう必要 ABC検診受診者台帳(1817名)から無作為に10名を抜粋してがん検診動向をみると、思い描く好事例と困難例があることが読み取れる。好事例は、例えばA-2判定のHY女は事後の胃カメラ検査をしていないが、国保であるので特定健診と共に胃と2種類のがん検診を受けている。C群のST女とE群のHM女は、一年以内に胃カメラ検査を受け、その後も肺がん・大腸がん検診と共に胃の検診も続けている。C群のSE女とD群のSH女も、事後の胃カメラ検査は6年後となった面倒なケースだったが、その後は特定健診および胃の検診と共に他のがん検診も受けているので、働きかけが功を奏した事例と考えている。困難な事例は、例えばA-2判定のSS女は事後の検診を4年後にしているが、その後は特定健診と肺がん・大腸がん検診を受けただけなので、胃カメラ検査の勧奨が必要である。B群のHM女は事後の胃カメラ検査をしたが、その後4年以上再検診が出来ていない。保健師と協働で定期検診の案内を出し続けなければならないケースと考えている。ABC検診の利点のひとつは胃カメラ検査の対象者を絞り込めるので、当町では作成した名簿を活用することで、より計画的な「がん検診」が可能になると確信している。今後、胃がん検診として有用なABC検診の受診率を、全町民の8割を目指して増やし続け、さらに有リスク群(特にE群)に効率的な胃カメラ検診ができるよう奮励する。