1967年に杉村と藤村が、既知の変異原(MNNG) を用いてラット実験胃がん系を確立し、当時、胃がんは、発がん物質により誘発されるという仮説があり、胃がんの生化学的な研究指標は知られていなかったが、他方、消化酵素ペプシンの前駆体PGが知られていた。降旗らが杉村の指導の許、PGを指標としてラット実験胃がん研究を始め、ラット幽門腺部粘膜と胃底腺部粘膜中と、MNNGで誘発した腺がんと腺腫で、4種類あるPG・アイソザイムの主成分PG1タンパク質が減少または消失することを明らかにした。PG1減少幽門腺腺細胞は細胞増殖が増進しており、胃がんの前がん病変であることを示し、一瀬らは、DNAのメチル化がPG1遺伝子の発現減少に関与することを明らかにした。立松らは、腸上皮化生ががん化とは独立した現象であることを示した。1980年代に、三木らは、胃粘膜から免疫学的に異なるPGIとPGIIを精製してラジオイムノアッセイとモノクローナル抗体を用いる検定法を開発し、血清中のPGIとPGIIを同定した。モノクローナル抗体を用いるPGIとPGII測定キットは世界初。ヒトの胃粘膜および血清中のPGIの減少は、胃がんの前がん病変の萎縮性胃炎の指標となること、ヒト胃がんでも、PG遺伝子のメチル化パターンの変化がPG減少に関与していることを明らかにした。2000年代、血清抗Hp IgG抗体と血清PGIおよびPGIIを組み合わせた胃がんリスク・スクリーニング法である「ABC検診」を確立し、学士院紀要Bにレビューを出版した。一瀬らは、4,655人の健康な無症候性被験者(男性)を対象とした16年間の前向き研究を行い、正常対照群A群では胃がん発生率は低く、B群ではハザード比(HR)8.9、C群では17.7、D群では69.7となることを報告し、血清中のPGI低下とHp 抗体価が、Hp 感染者のがん発症の指標となることを明らかにした。国立がんセンターでは、今後10年の胃がん危険度 “胃がんチェックリスト”を発表し、チェック項目の一つにABC検査(ABC法)を入れている。ABC検診とHp 感染者の除菌とその後の定期的な内視鏡検診が胃がん予防に推奨される。