本稿では、2021年に Helicobacter から発表した研究成果を基に、日本が世界を先駆けて実践している慢性胃炎患者に対するピロリ菌除菌戦略の費用効果分析の結果およびその経済効果や胃がん予防効果について紹介したい。…医療費支払者の立場から、生涯にわたる期間について、マルコフサイクルツリーに直接つながる構造をもつピロリ菌除菌戦略とピロリ菌を除菌しない戦略を比較したコホート状態遷移モデルを構築した。…評価指標は、費用、生活の質を考慮した生存年数、生活の質を考慮しない生存年数、増分費用効果比、胃がん罹患数、胃がん死亡数であった。サイクルの長さは1年とし、すべての費用とユーティリティは3%の割引率で求めた。さらに、マルコフコホート分析を実施して、ピロリ菌を除菌しない戦略と比較して、ピロリ菌除菌戦略が防いだ生涯にわたって累積された胃がん罹患数と胃がん死亡数を求めた。その結果、20歳から80歳までのすべての年齢において、ピロリ菌除菌戦略は、ピロリ菌を除菌しない戦略と比較して、費用を削減し、効果がより高いことが明らかになった。…2013年から2019年までの間に除菌された患者について、生涯にわたって蓄積された経済効果をみると、ピロリ菌除菌戦略は、ピロリ菌を除菌しない戦略と比較して、3.8千億円の費用を削減した。…胃がん予防効果をみると…胃がんになる284,188人を予防し,胃がんから65,060人の命を救った。…ピロリ菌除菌戦略は、胃がんの高発生国における胃がん対策にかかる経済的負担を軽減するばかりでなく、将来におこる胃がん罹患数や胃がん死亡数を確実に減らすことができる。…日本は、費用対効果の高いピロリ菌除菌戦略をさらに積極的に導入した胃がん政策を強力に推進して、すべてのピロリ菌陽性の国民が除菌することを実現させ、地球上から胃がんがなくなる未来に向かって、世界をさらに大きくリードすることが求められている。