本邦における食道がんは男女比が6:1と男性に多く、男性の部位別がん死亡患者数7位の疾患である。本邦において約90%を占める食道扁平上皮癌が発生する危険因子として飲酒と喫煙の影響が強いことが知られている。また日本人の約4割が飲酒により顔が赤くなる「フラッシャー」となるALDH2*2遺伝子多型を保有しており、こういう方はアルコールの分解過程で発生する発がん性物質であるアセトアルデヒドが体内で長く残るため食道がんになりやすいとされている。食道がんはStage I までに早期発見できた場合には低侵襲治療である内視鏡的切除により5年生存率約90%が得られる…どのような食道がんが内視鏡治療の候補となるのか?内視鏡切除の適応の原則は「リンパ節転移のリスクがほとんどない」ことと、「腫瘍が完全切除できる」ことである…内視鏡的切除が可能であるか評価するためには術前に壁深達度を評価することが非常に重要であり、日本食道学会ではそのために超音波内視鏡もしくは拡大内視鏡による精査を推奨している。また広範に及ぶ食道の内視鏡的切除を行った際には瘢痕収縮により食道の通り道が狭くなるリスクが高い。術後狭窄リスクが高い場合には十分な狭窄予防策を講じることも重要である。…内視鏡治療の実際;Stage Iまでの食道がんに対する標準内視鏡治療は内視鏡的切除であり、根治性を正確に評価するためにも一括切除が望ましい。10mm前後までの食道表在がんに対しては内視鏡的粘膜切除術(EMR)も有用であり、特に透明キャップを用いたEMR(EMRC)では低リスクで高い一括切除率が得られる。…根治性の評価;内視鏡切除が実施された後に病理学的評価を行い、食道がんに対する治癒が得られたか判定する必要がある。…将来展望;食道表在がんに対する内視鏡治療は低侵襲でありながら高い根治性も期待でき、既に世界的にも多くのガイドラインで食道扁平上皮癌に対する標準治療とされている。一方、海外に多い食道腺癌に対する内視鏡治療の適応や根治性評価基準はまだ今後の課題である。