本邦では優れた胃がん検診が導入されており、それにより胃がんの早期発見・早期治療が可能となってきました。現在では50歳以上の…対策型胃がん検診の方法として、胃部X線検査…の他に、胃内視鏡検査が推奨されています。胃の内腔を直接視認でき、疑わしい箇所があればその場で組織検査もできる胃内視鏡検査は、胃がん検診のツールとして今後さらに普及が進んでいくものと思われます。一方で、胃内視鏡検査は、施行する個々の内視鏡医の技術に依存した検査でもあります。…「胃がんを見落としなく指摘する」質の高い内視鏡検査に必要な要素として、以下の3つが挙げられます。1.胃内観察の質を高める:本邦の消化管内視鏡医の技術は世界的にも優れていますがそれを支えているのは個々人の献身的な努力です。…内視鏡医が質の高い胃内観察を行う上で、「観察時間」は非常に重要な要素といえます。…ヨーロッパ消化器内視鏡学会は人生で初回の内視鏡検査、あるいは「腸上皮化生」という胃がんハイリスク状態のフォローアップの内視鏡検査では少なくとも7分以上時間をかけて行うべき、と推奨しています。…2. 苦痛の少ない内視鏡検査を心がける:胃がんの見落としを避けるためには、定期的に内視鏡検査を受けることが大切です。…内視鏡医は「苦痛の少ない内視鏡検査」を施行すべきであります。…一方、使用するスコープの種類でも苦しさはかわります。基本的には、細い内視鏡ほど苦痛は少なくなります。細径内視鏡の代表格は、経鼻内視鏡、つまり鼻から挿入する内視鏡です。鼻腔から食道に入っていくルート自体、嘔吐反射が出づらくなることに加え、スコープの直径が5.9mmと大変細くなっていることにより検査が非常に楽になります。…昨今は非常に高画質な経鼻内視鏡が次々発表されており、今や画質に差はないと言えます。経鼻内視鏡を…通常の経口ルートで使用することも可能です。経鼻内視鏡は通常の経口内視鏡に比べて胃がん検出率は遜色ないというデータも発表されており、胃がんのスクリーニングにおいては積極的に経鼻内視鏡を活用すべきと言えるでしょう。3. 画像テクノロジーを活用する:画面内に胃がんが写っているのにそれに気が付かない、というパターンの見落としは一定頻度で起こり得るため、これを防ぐための対策が必要となります。昨今ではテクノロジーの発達が著しく、うまく活用することで内視鏡医の補助となることが期待されます。一例としては、LCIという画像強調内視鏡技術があげられます。これは、通常の光(白色光)に比して青紫の波長の光を強く照射することで粘膜表面の構造や血管を強調し、さらに画像処理の際にわずかな粘膜色調差を強調することで病変を見つけやすくする技術です。…胃内観察で非常に役に立つツールです。また、人工知能(AI)は内視鏡分野でも大いに活躍が期待されています。本邦でも胃がん検出を支援するAIとしてCAD EYE(FUJIFILM)、gastro AI-model G(AIメディカルサービス)が認可されており、内視鏡医の胃がん検出を支援する強力なツールとして期待されています。まとめ:内視鏡医の「腕」だけではなく、様々な技術を使いこなすことで見落としのない胃がん内視鏡スクリーニングが可能になります。今後も、我々内視鏡医は基本となる内視鏡技術を磨きつつ、新しい技術を使いこなしていく必要があるでしょう。