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監修 三木 一正(NPO法人 日本胃がん予知・診断・治療研究機構)

既感染は、胃カメラで確認できますか?

YESですが、画像診断で感染既往を診断するのは熟練を要するので、診断医の技量差がありますし、人の目による診断ですので100%ではありません。特に感染早期に除菌されて、胃粘膜萎縮がほとんど進んでいない場合には、ほとんど未感染と変わらない胃粘膜であり、既感染と判別するのは極めて難しいです。これをA群と診断することは、偽Aを真Aと診断するわけですから、誤診ということになり、ご質問の、「『真のA群』の判定になっても、既感染のケース」となります。

『真のA群』の判定になっても、既感染のケースはあるのでしょうか?

既感染の完全な診断はできません。
感染が治癒すると、抗体価は徐々に低下するからです。また加齢による免疫の低下で、感染があっても抗体価は低下し、3以下になる場合もあります。したがって、HPIgGが3未満でも、感染既往が含まれている可能性は、低率ですが、あります。
3<HPIgG<10の陰性高値に感染既往が含まれる率が高いので、この陰性高値にレントゲンもしくは内視鏡の画像診断を行って、感染既往の可能性があるかどうかを診断することを推奨しています。

ピロリ菌既感染(過去に感染があって、現在の感染は無い)の場合、必ず『偽A』になりますか?

既感染でもHPIgG≧10であればBかCに分類されますし、PG法が陽性であればCかDになります。
既感染のうち、偽Aになるのは、PG法が陰性かつHPIgG<10の場合、すなわちAに分類された場合のみです。

下記2つのケースは、背景胃粘膜診断で「HP既・現感染の可能性が低い(=真A群)」と判定しても、よろしいのでしょうか? #1)40歳 男性 ピロリ菌除菌歴なし バリウム検診『異常なし』、ABC検診 ピロリ菌抗体 4.3(陰性高値)、PGⅠ…48.8、PGⅡ…10.5、Ⅰ/Ⅱ比…4.6(陰性) #2)47歳 男性 ピロリ菌除菌歴なし バリウム検診『異常なし』、ABC検診 ピロリ菌抗体 3.0未満(陰性)、PGⅠ…104.5、PGⅡ…19、Ⅰ/Ⅱ比…5.5(陰性だがPGⅡ12以上の偽A)

バリウム検査で「異常なし」とあるのは、萎縮性胃炎があっても、がんや潰瘍、ポリープといった病変がなければ「異常なし」と診断しているのか、あるいは、萎縮性胃炎があれば「(萎縮性)胃炎」と診断し、「異常なし」とはしていないのか、胃がん検診担当者に確認してください。後者であれば、♯1、♯2の症例とも、実用上はA群(真A)と診断してよいと思います。

胃がんリスク検診を行う方法についての質問です。ピロリ検査について。当院では内視鏡は行っておりません。偽陰性を減らす目的で、抗体検査(血液もしくは尿)と便抗原検査を組み合わせた方が良いと思いますが、いかがでしょうか。多施設でABC健診の案内をみているとほとんどが採血検査のみでピロリ判定をされている印象です。

胃がんリスク検診での偽陰性の多くは、ピロリ菌の既感染(過去に感染があって、現在の感染は無い)です。既感染の方は胃がんリスクがあるにも関わらず、A群に分類されてしまう可能性があります。抗体検査における陰性高値(3 < HpIgG < 10)の方は、既感染の可能性が高いので、現在、その値の人を有リスクとして再分類することを検討しています。 便抗原検査は、現感染を見ているので、今問題になっている既感染を拾い上げることはできません。従って、胃がんリスク検診における偽陰性を減らす目的で組み合わせることは適当ではありません。 ただし、BC群に対して、ピロリ菌除菌を検討する場合、抗体検査では陽性(10以上)であっても、既感染(既に感染は無い)が含まれている場合があるので、尿素呼気テストや便抗原検査を組み合わせて現感染を確実に診断する事は意味があります。 また、D群において、HpIgG抗体価が10以下であっても、現感染の場合がありますので、尿素呼気テストや便抗原検査を組み合わせて現感染を診断して除菌することにも意味があります。 以上まとめますと、偽陰性を減らす目的には、抗体検査の陰性高値( 3 < HpIgG < 10)をハイリスクとして扱うことが追加費用もかからず合理的です。 除菌を目的とした場合には、ご指摘いただいているように、便抗原検査を組み合わせて、現感染を診断することが良いと思います。

A群の判定について、注意すべき点を教えてください。

A群に混入する胃がん有リスクであるHP既・現感染(偽A群)とその対策として、
ピロリ菌除菌歴など、ABC分類に影響を与える事項についての問診は必ず行ってください。
血清Hp抗体価陰性高値(E-プレート‘栄研’H.ピロリを用いた場合は3U/ml以上10U/ml未満)の場合は偽Aの可能性があります。
PG値については、以下の場合は偽Aの可能性あることが報告されています。
① PG Ⅱ≧ 12ng/ml やⅠ/Ⅱ比<4.5、高齢者の多い集団ではPGⅠ<30ng/ml ② PG Ⅰ/Ⅱ<4 以下 ③ PGⅠ/II 比が3 に近い場合やPG II ≧15 ④ PG I≦ 30 or PGII > 30 or PGI/II ≦ 2.0 偽Aが疑われる場合は、 一度は画像検査を行い背景胃粘膜診断との対比を行い、HP既・現感染の可能性が高い場合は、胃がん有リスクとして定期的画像検査の対象としてください。 血清Hp抗体価陰性高値の場合は感染診断保留とし、他の手法でHp感染診断を行ない、陽性であれば胃がん有リスクとして定期的画像検査の対象としてください。

A群の方は、数値も正常範囲内でしたら、基本的に内視鏡検査は受けないと認識しています。その方たちの食道がんの発見方法は、問診だけになるのでしょうか?食道がんの問診で、高リスクが認められれば、内視鏡を勧めやすくなりますが、食道がんの問診においても、それほどリスクが高くない方については、食道がんを見逃すリスクが高くなるような気がしますが、その辺りの対策はどのようにしたら良いのでしょうか?

食道がんは胃がんに較べて頻度が低く(約10分の1)、かつ、久里浜法(横山顕ら)の問診でリスクが絞り込めます。それゆえ、問診でリスクが高くない方は、食道がんになる確率がきわめて低いわけですから見逃しリスクも低いといえます。それでも心配な方には、はじめから内視鏡検査をうけさせるのがべストですが、頸部食道がんは通常内視鏡でもみつけにくいので、内視鏡検査を実施したとしても完ぺき(100%)ではありません。

当健保組合ではABC検診の導入を検討しています。受診された方がA群という判定が出た場合、本人にはどのように説明すればよろしいでしょうか。胃がんになる可能性が低いので、胃の自覚症状がなければ、一生、バリウムや胃カメラはしなくて良いのでしょうか?

無症状のA群の方は、胃がんリスクは低いので、原則として生涯内視鏡精査の必要はありません。
ただし、偽A群(A群に混入する胃がん有リスクであるHP既・現感染)の問題があるので、ピロリ菌除菌歴などABC分類に影響を与える事項についての問診は必ず行ってください。
血清Hp抗体価陰性高値(E-プレート‘栄研’H.ピロリを用いた場合は3U/ml以上10U/ml未満)の場合は「偽A」の可能性があります。
PG値については、以下の場合は「偽A」の可能性あることが報告されています。
①PG Ⅱ≧ 12ng/ml やⅠ/Ⅱ比<4.5、高齢者の多い集団ではPGⅠ<30ng/ml
②PG Ⅰ/Ⅱ<4 以下
③PGⅠ/II 比が3 に近い場合やPG II ≧15
④PG I≦ 30 or PGII > 30 or PGI/II ≦ 2.0

「偽A」が疑われる場合は、一度は画像検査を行い背景胃粘膜診断との対比を行い、HP既・現感染の可能性が高い場合は、胃がん有リスクとして定期的画像検査の対象とします。
また、血清Hp抗体価陰性高値の場合は感染診断保留とし、他の手法でHp感染診断を行ない、陽性であれば胃がん有リスクとして定期的画像検査の対象とします。
この旨、受診者に説明してください。

私たちが所属する健康保険組合での胃がん検診は、昨年度まで、バリウム検査を実施しておりましたが、今年度からは、本人が、バリウム検査とABC検診を、選択できるようになります。昨年、胃ポリープの所見で、経過観察(ポリープが小さかったため)の判定の人は、今年は、バリウム検査とABC検診、どちらを選択すると良いのでしょうか? バリウムではポリープの変化が観察できると思われますが、ABC検診ではポリープの観察はできないと思われます。したがって、昨年胃ポリープの所見で経過観察となっている人は、今年もバリウムを選択した方が良いのでしょうか?

バリウム検診で要精査ではなく、経過観察になっているポリープは、がん化しないタイプの胃底腺ポリープである可能性が高いです。また、胃底腺ポリープがある場合は、ピロリ菌感染のない胃粘膜であることがほとんどです。したがって、胃底腺ポリープのある方は胃がんにはなりにくく、バリウム検診を毎年受けるメリットは少ないといえます。
まずは過去のX線所見を確認し、ポリープが胃底腺ポリープと診断できるのであれば、今回はABC検診を受診してピロリ菌感染がないことを確認し、来年以降は胃がん検診の対象から外すべきです。
X線所見だけでは胃底腺ポリープの診断がつかないのであれば、内視鏡にてポリープの病理学的診断を行うべきです。
その結果がんでなければ、ABC検診を受診し、ピロリ菌陽性であれば除菌した上で、バリウムまたは内視鏡で経過観察すべきです。
ピロリ菌感染のない、がん化しない胃底腺ポリープを、バリウム検診で毎年フォローしている例を多数見受けますが、これは無駄な検診といえます。

日常診療で内視鏡検査時に慢性胃炎があればHP抗体検査し、陽性では除菌し、判定は便もしくは呼気テストでおこなっています。最近ABC検診の2次検査の患者さんが来院していますが、説明用紙にはHP抗体陽性ではさらに便、呼気などの確認試験を行ってから陽性であれば除菌となっています。HP抗体陽性単独だけで除菌し判定は便や呼気ではダメなのでしょうか? また、HP抗体陽性で便や呼気が陰性の場合は除菌の対象外となるのでしょうか? 本来ABC検査はHP感染による発癌リスク軽減を目的と考えていましたので、できるだけ除菌の方向が良いと思うのですが。

HPIgG抗体陽性のみで、除菌して差し支えありません。
HPIgG抗体陽性者の中の偽陽性は、HP除菌後2年以内などをのぞけば、それほど多くないからです。
HPIgG陽性で便抗原OR呼気陰性の場合は、偽陽性の可能性は高いですが、陽性に出ている検査が1項目以上あれば陽性という原則(除菌後を除く)に従い、陽性と判断し除菌すべきです。
今問題になっているのはHPIgG陰性高値(抗体価3以上10未満)の中の現感染で、3≦HPIgG <10の場合は、現感染なしと判断せず、便抗原OR呼気検査を行い、陽性であれば現感染有と判断し、除菌すべきです。

私は69歳の女性で、初めて今年(2012))11月27日にABC検診を受診しペプシノゲン 2+. ヘリコバクターピロリIgG抗体 3.0 で、D群の判定でした。胃の自覚症状はありません。 8年前の健康診査の内視鏡検査ではピロリ菌はありませんという説明でしたので、どうして今回D群になったのか? 8年前の検診のあとピロリ菌に感染し、胃を荒らし、現在ピロリ菌が住めなくなって、抗体陰性となったということでしょうか?

8年前の検診の時点ですでにD群で、その時点でのピロリ菌感染はない、という説明がなされた可能性が一番高いとおもわれます。成人してから新規にピロリ菌持続感染が起こることはまれだからです。

また、ペプシノゲン法のカットオフ値ぎりぎりのところでは、微妙な測定誤差でA群⇔D群となってしまうこともあり、8年前から現在もピロリ菌感染のないA群相当の胃粘膜である可能性も否定できません。

まずは内視鏡検査で胃がんの有無と現在の胃粘膜の状態を診断し、尿素呼気テストによって現在のピロリ菌感染の有無を確認することをおすすめします。

ピロリ菌感染から胃粘膜萎縮の進展は無症状に進行します。また年齢とともに免疫反応が弱くなるので、現在感染が続いていても抗体価が陰性になっている可能性があります。

ABC検診は生涯で1回受ければ十分なのでしょうか。私の自治体では胃がん検診にバリウム検査とABC検診があります。ABC検診を受けたのならば、バリウム検査は受けなくても構わないでしょうか?

ABC検診は原則、生涯に一度に受診でOKです。

胃がんの原因であるピロリ菌感染は4歳以下で起こるからです。胃がんリスクが低いA群と診断された場合には、将来胃がんになる可能性はきわめて低いので、バリウム胃がん検診を受けるメリットは少ないと思います。乳がんになる可能性のきわめて低い(ゼロではない)男性が、乳がん検診を受けるメリットがないのと同じです。
もし、BCD群と診断されたら、定期的に内視鏡検査を受けて、ピロリ菌除菌療法お受けになることをおすすめします。内視鏡検査、除菌療法とも、保険診療で受けられます。

ABC検診は、ピロリ菌抗体検査とペプシノゲン検査の2つの血液検査で、胃ガンのリスクを3段階で表すようですが、仮にリスクが一番重いC判定だった場合、100%がんがあると言えるのでしょうか。一般的な健康診断などに含まれる胃のバリウム検査のように、部分的にがんの位置までは調べられなくても、バリウム検査同等にがんの有り無しが分かる正確さがあるかどうかが知りたいです。

胃がんリスク検診は、胃がんになりやすいかどうかを判定する検診で、現在胃がんがあるかどうかを診断するものではありません。胃がんリスクCと判断された場合には、年率0.2%で胃がんになる可能性があると見積もられています。
胃がん発見のためには、内視鏡検査を受け、胃がんのリスクを下げるためにピロリ菌除菌療法をおこなうことをお勧めします。

勤務先で胃がん検診をやってもらえることになり、ABC検診か胃透視、どちらかひとつを選択するように言われました。50歳直前の男性です。これまで3年間胃透視を受け、2年前に近医で内視鏡を受診し、いずれも異常を指摘されていません。ABC検診は今年から始まるため、これまで受診したことはありません。ABC検診か胃透視、どちらかを選ぶなら、今回はABCを選び、異常があれば内視鏡で精査、という手順でいいかと思うのですが、何か見落としていることやアドバイスがあればお願いできますでしょうか。

過去にABC検診を受診していない(または、ピロリ菌検査を受けていない、除菌療法を受けていない)、そしてABC検診でBCD群であった場合に、内視鏡検査を受けられる体制が整っているのならば、今回はABC検診を受診することをお勧めします。
その結果、A群であれば、次年度以降の胃の検診(胃透視、ABCの再検)は不要。BCD群であれば診療として内視鏡検査、ピロリ菌除菌(B群、C群、およびD群もHpの現感染が確認された場合)を実施し、次年度以降も検診ではなく診療として内視鏡でフォローアップしてもらうようにしてください。

早期胃がん(Ⅰa期)で昨年12月末に手術した者です。10年前に上部内視鏡検査でヘリコバクター・ピロリ陽性と診断され除菌せずに放置していました。術前にペプシノゲン値を測定したところ強陽性と判定されました。最近、再度ペプシノゲン値を測定した結果同じく強陽性でした。ピロリ菌検査の結果、陰性(-)でした。所謂「D群」です。この場合、ピロリ菌除菌が必要か否か、またその理由について教えてください。ちなみにCEA測定値は術前2.6で術後1.5でした。

胃全摘術を行なわれたのであれば、除菌の必要はありません。部分切除(胃が残っている)のであれば、尿素呼気試験、またはヘリコバクターピロリ便中抗原検査を行ない、陽性であれば、残胃からの胃がん発生を予防するために、ピロリ菌除菌を実施することお勧めいたします。
また胃切除された方のペプシノゲン値は評価できません。

ABC検診を受けてピロリ菌陽性であった場合、保険適用の除菌治療を行うためには内視鏡検査を受けなければなりませんか。その場合、最初から内視鏡検査を受けたほうが、費用面では負担が少なくなりますか?

保険診療でピロリ菌除菌を行なうためには、内視鏡検査を受けて胃炎の診断をすることが必須です。内視鏡検査を受けなければ、保険診療で除菌を行なうことはできません。
万一、すでに胃がんがあった場合、ピロリ菌を除菌してもがんがなくなるわけではないので、まず内視鏡検査を受けることをお勧めします。

がん検診対象年齢の40歳未満の方であれば、がんがある可能性は低いことから、内視鏡をやらずに自費での除菌療法を実施し、40歳以降になったら内視鏡検査を受けることも現実的には容認しています。除菌は若いときほど胃がん予防効果があるので、内視鏡を受けたくないばかりに若年者が除菌しないことはよくないとの考えからです。

費用面では、1)保険診療での内視鏡検査+除菌療法、と、2)自費での(内視鏡をやらずに)除菌療法の費用では、2)はその後の除菌判定検査も自費になってしまうため、1)の方が安いと思われますが、自費診療の価格は各医療機関によって異なるので、受診する医療機関にご相談ください。

「ABC検診」のやり方は統一された実施方法があるのでしょうか?

ABC検診の結果によって、医療機関に紹介し内視鏡検査、ピロリ菌除菌を行う方法と、ABC検診と胃X線検診、内視鏡検診を組み合わせて効率化する方法の2つが行われています。

ABC検診だけでは胃がんを発見することはできないので、有リスク者に対する画像検査が行える体制を整えることが最も大切です。

検査自体については、Hp抗体測定キットにはばらつきがあるので、「国内株で判定保留域のないキット」の使用を推奨しています。

胃がんリスク検診でピロリ菌感染がわかった場合、保険診療で除菌療法を行ってよいのでしょうか?

胃がんリスク検診の目的は、胃がんのリスクを診断し、BCD群に対して定期的に内視鏡検査を行うことで胃がんを早期発見することです。除菌療法を行う前に必ず内視鏡検査を行い、胃がんを除外診断してください。2013年2月の保険改訂で、内視鏡で確認されたピロリ菌感染胃炎に対する除菌療法が保険適応になりましたので、内視鏡検査を行った上でのBC群に対するピロリ菌除菌を保険で行うことは、現在問題ありません。

D群は過去にピロリ菌に感染し、胃粘膜萎縮が進展し菌が排除された群と説明されますが、実際には感染が持続しているにもかかわらず、抗体が低下しているために、ピロリ陰性と判定されている場合があります。D群でも尿素呼気テストや便中抗原で陽性反応が確認されれば、除菌療法の適応になります。

除菌が成功しても胃がんにならなくなるわけではないので、定期的な内視鏡検査を継続することが大切です。

現在、2000人規模の企業の産業医をやっておりますが、来年度から胃癌検診を間接MDLからA BC検診に変える方向で検討しています。他の企業でどのような方法で行われているのか知りたいのですが、ABC検診を企業検診として行っている企業がありましたら教えていただけないでしょうか 。ちなみに当社では企業内診療所はありますが、内視鏡は施行できません。

産業医がABC分類に応じた内視鏡精密検査方針を立てる。受診者にABC分類による胃がんリスクを説明し、内視鏡精密検査方針に従い、内視鏡検査を医療機関で受診することを勧奨。その説明を聞いて、受診者本人が「胃がんが心配になり」、医療機関を受診し、保険診療として各医療機関で内視鏡検査を実施。受診者本人の意思で受診することで、保険診療での内視鏡実施は問題ありません。
その際、受診者に、内視鏡結果、HP除菌についての情報を産業医宛に返却してほしい旨の書類を持たせる。(企業の医務室が医療機関であれば、診療情報提供書として)。

主旨を理解してくれている内視鏡実施医療機関と提携できれば望ましい。

以後、データ管理をしながら、内視鏡精密検査方針にしたがい、ABCリスクに応じた内視鏡勧奨を定期的に社員に対して行なっていくという流れでよいと思います。

ABC検診で実際に区分された受診者は、検査してから生涯を終えるまでABC区分で考えればよろしいのでしょうか。つまり、A群は一切検査しない群、B群は3年以内に一回程度内視鏡を実施すればよい、C群は2年以内に一回程度内視鏡検査をすればよい、D群は1年以内に一回程度内視鏡 検査を」すればよい、となりますが、正解でしょうか。ABC検査自体の間隔について教えてください。

内視鏡精査間隔に根拠を示すデータはありません。

1980~95年に某職域で、逐年のバリウム検診と隔年に内視鏡検診を実施した結果、後者の方が胃がん死亡が少ないことから、ペプシノゲン法陽性者(C群)への内視鏡精査は2年に一度を標準とし、それよりリスクの少ないB群を3年に一度、ハイリスクのD群を1年に一度、と旧マニュアルにおいて暫定的に決めましたが、今回の改定版では、この内視鏡実施間隔の推奨はなくなりました。
各群の内視鏡精査実施間隔は、担当医の判断を優先してください。

成人のABC分類は原則として変化しません。Hp持続感染が4歳以下で成立するからです。

ただし萎縮性胃炎の進展でB→Cとなることはありますが、有リスク群のなかでの変化なので、それほど問題はない、と考えます。内視鏡検査対象からはずすA群については、問診をしっかりおこなって、除菌既往のある方はE群として、有リスク扱いにしてください。

また、カットオフ診断なので、カットオフ値近傍では、再検によってAがD、DがAになることがあります。したがってカットオフ近傍でAの方はABC検診を再検する、他のピロリ菌感染診断を追加する、初回のみ内視鏡検査を実施し、萎縮のない(ピロリ菌感染既往のない)ことを確認の上、A群として以降の内視鏡対象からはずす、などの対応がよいと思いますが、どのラインを近傍ととるかが、また問題になります。いまのところPGⅠ/Ⅱ比3~4は、ピロリ菌感染既往の可能性が高いので注意が必要です。

ABC分類におけるピロリ菌の項目は血清ピロリ菌IgG抗体のことで、便中ピロリ菌検査(ピロリ菌抗原)あるいは尿素呼気試験では適応されませんか?

胃がんリスク分類(ABC分類)は、採血だけで簡便に胃がんリスクをスクリーニングするマススクリーニングの手法です。血清ペプシノゲン値、血清ヘリコバクターピロリIgG値を組み合わせて胃がんリスクを分類するもので、この2つの検査の組み合わせデータの蓄積から判定基準が決められているので、ピロリ菌検査を便中抗原や尿素呼気テスト、尿中抗体検査で代用することはできませんし、手間や費用を考えても代用のメリットはありません。

ただし、血清ヘリコバクターピロリIgG値以外のピロリ菌検査、便中抗原や尿素呼気テスト、尿中抗体検査によってピロリ菌感染を診断し、血清ペプシノゲン値による胃粘膜胃萎縮の評価、もしくは内視鏡検査や胃レントゲン検査で胃粘膜萎縮の状態を直接判断して、それらを組み合わせて、胃がんリスクを評価することは可能です。理論はABC分類と同じですので、マススクリーニングではなく、臨床現場において血清ヘリコバクターピロリIgG値以外のピロリ菌検査を用いて胃がんリスクを評価することは、問題ありません。

D群に対してもピロリの除菌が必要とありますが、D群ではピロリ菌はすでにいなくなったのに 除菌が必要でしょうか?

D群は血清HPIgG抗体価は陰性の群で、一般にはピロリ菌感染既往群と解釈されています。しかし、血清HPIgG抗体価の感度は100%ではないので、加齢による抗体価の低下等で陰性化しているだけで、感染が続いている症例もあります。

ピロリ菌感染診断については、保険診療でも、1項目の検査方法で陰性となった場合、他の検査項目を追加実施し算定できることになっています。
D群については、内視鏡検査でピロリ菌感染胃炎の診断がついた場合には、HPIGG抗体検査以外の検査(尿素呼気試験、便中抗原)を追加実施し、陽性であればピロリ菌現感染として、除菌療法を行うことをおすすめします。

後期高齢者にはあまり適さないなどの意見もありますが、リスク検診の年齢は「何歳から何歳まで」 を推奨されていますか。またその根拠などはありますか?

75歳以上ではピロリ菌感染率が高いので、胃がんリスクのスクリーニング検査としては不適当、という意見もあります。目黒区では75歳以上は胃がんリスク検診の対象からはずし、未受診の場合は74歳を対象年齢の上限としていますが、学術的根拠はありません。

ただし、2013年2月より、ヘリコバクターピロリ感染胃炎が除菌治療の保険適用対象になり、これには年齢制限は設けられておりません。また高齢者においても、特に都市部ではピロリ菌感染率が下がっており、スクリーニング検査の必要性が高くなることが考えられます。

対象年齢の上限は、現時点では、従来の胃がん検診の受診率、住民のニーズ、予算などから、それぞれの自治体が判断してよいと考えます。

胃がんリスク検診を実施している自治体に問い合わせをしたところ、5年間隔で対象年齢を決められていましたが、貴NPOでは何年間隔を推奨されていますか。またその根拠はありますか?

ピロリ菌感染は4歳以下で起こるので、成人対象のABC検診は原則として生涯一度受ければ十分です。

がん検診の対象となる年齢で行なう場合は、初年度に40歳以上全員に行い、次年度以降は前年度以前に受診していない人(新規に40歳になる人、転入者、受診漏れの人)にのみ実施していけばよいのですが、この方法では初年度の予算や事務処理負担がたいへんになるので、初年度から5年間は40才、45才、50才・・・の人に実施し、6年目以降は40歳全員と、45才、50才・・・の受診歴のない人(転入者、受診漏れの人)にのみ実施するのがよいと思います。(東京都目黒区の事例)。

特に根拠はありません。あくまで事務作業と費用の均一化の問題です。

ABC検診のPGⅠ/Ⅱに関するカットオフ値についての診断基準は変わらないと考えてよろしいでしょうか?

いま、A群に胃がん有リスク者(ピロリ菌感染既往者)が混在することが、ABC検診の最大の問題点となっています。

ペプシノゲン法、HPIgG値のカットオフ値については、変更の予定はありませんが、A群の中でも有リスクが疑われ、画像診断を勧奨する群を設定し、コンセンサスを得ることを検討中です。

具体的には、3<PGⅠ/Ⅱ<4.5、3<HPIgG<10 あたりが、A群の中でも、有リスク(HP感染既往)が疑われます。ちなみに群馬県高崎市ではPGⅠ/Ⅱを4.0以下として運用しています。

事後措置は必ず行うものとして、5歳刻みでABC検診を実施し続けることが有効なのか、教えてください。

ピロリ菌感染は4歳以下で起こるので、成人対象のABC検診は原則として生涯一度受ければ十分です。繰り返し受診は、特にBCD群の方には全く意味がありません。

A群については、ボーダーでの変動の可能性もあるので、5年おきに再検してもよいかも知れません。

前回B判定の方がピロリ菌を除去した場合にA判定となるなど、直近のABC検診でよい判定がなされた場合、どう考えていけばいいですか?

一度、「感染有り・感染既往あり」と診断された方は、その後の検査によらず有リスク群として扱ってください。

いま、5歳刻みの年齢の際にABC検診を定期的に実施していますが、以前B判定だった受診者が今回A判定となった場合、いずれの判定を優先させるべきでしょうか。

除菌療法後以外でも、自然除菌や感冒等での抗生剤投与、加齢による抗体価の低下等、またカットオフ値のボーダー付近ではABC検診の判定値変動が見られます。

胃がんのリスクとなるピロリ菌感染および、感染既往の有無をチェックするのがABC検診の主眼ですので、一度感染・感染既往あり(すなわちBCD)と診断された方は、その後の判定によらず、胃がん有リスク群として扱ってください。

未成年者にはABC検診ではなく尿で判定してもよろしいでしょうか。これを、先に保険診療し てしまった場合、内視鏡検査が後になって、結果、除菌治療が保険で請求できないと解釈するのですが、いかがでしょうか?

若年者のピロリ菌感染診断は採血検査の負担のない尿中抗体でもよいとおもいます。高齢者は抗体価の低下がありますが、若年者では一致率がよいことも理由です。

保険診療での除菌療法は内視鏡検査が先行することが必須です。内視鏡をする前に除菌を行なえば自費扱い、その後の除菌判定も自費扱いになります。

検査結果にその日の体調や、ストレス度合い等が関係したりもするものなのでしょうか?

ペプシノゲン、ヘリコバクター検査とも、体調や影響は少ないと思います。
腎機能、服薬(プロトンポンプインヒビター、抗生剤)の影響は受けます。

カットオフ値付近の誤差による判定の違いはあったとしても、誤差とは認識できない範囲での判定結果が出ることもあるのでしょうか?

ピロリ抗体は測定キットによってカットオフ値が異なりますので、数値を比較する場合は注意が必要です。

便は直接抗原をみるので、血液、尿とは別物です。
糞便抗原検査は抗体検査より感度が高いです。
ただし、現感染の有無をみるものなので除菌の要否判断や除菌判定には適していますが、単独では除菌後など感染既往が判定できないため、胃がんリスク検診の代用にはなりません。

尿血液は抗体をみています。抗体価の変化により値は変動します。感染既往(現感染なし)でも陽性に出ることがありますので、除菌判定には使えません。

医療機関でABC検査を行う場合、郵送検診でのABC検査(ろ紙・便・尿・超微量血液)でそ れぞれ検査を行った場合で、検査方法による判定の差はありませんか?

ペプシノゲン値については、測定キットによる誤差は少ないです。ちなみに、尿、便でのペプシノゲン測定はできません。

郵送検診のキットは採血血漿と相関が確認されたものが使われているので、指示通りの使用であれば問題ありませんが、検体の輸送中の保存温度や保存期間によって変化するため、注意が必要です。

ABC検診結果でBCD群と判定された方が「どうしても内視鏡検査を受けたくない」という場 合、除菌治療だけできるのでしょうか。 また、内視鏡検査がだいぶ先になってしまうときは除菌治療 を先行して行うことはできるのでしょうか?

自費診療であれば、除菌療法のみの実施は可能です。
若年者であれば除菌時点で胃がんが存在している可能性は低いので、内視鏡は拒否されても、せめて除菌だけでも行っておくのは現実的な対応だと思います。
保険診療で除菌を行うには、内視鏡検査を先に行い、胃炎の診断がついていることが条件です。
自費であれば、除菌を先行してもよいと思います。

胃切除後のABC検診についてお伺いします。 胃全摘の方には実施しない方がいいですか。また、胃を一部切除している場合は参考値として実施し てもよいのでしょうか。その場合の基準域はどう考えればいいですか?

胃全摘後の方には胃がんリスクはありませんので、胃がんリスク検診実施は無意味です。胃切除後の方のペプシノゲン値は胃粘膜萎縮を反映しませんので、ABC分類の対象外です。

しかし、胃がんで胃切除を受けた方の残胃は、当然のことながら胃がんハイリスクです。ピロリIgG抗体陽性の場合は、残胃にピロリ菌感染が持続している可能性が高いので、残胃からの発がんを予防するために、除菌療法を受けた方がよいと思います。また、ピロリIgG抗体陰性であっても、尿素呼気試験か便中抗原検査を追加実施し、厳格にピロリ感染診断を行うべきです。それらが陽性であれば、残胃にピロリ菌感染が持続しているので、残胃からの発がんを予防するために、除菌療法を受けた方がよいと思います。

ABC検診でピロリ菌感染診断をしてから内視鏡検査を行なった場合、保険診療でピロリ菌除菌を行なうためには、再度ピロリ菌検査を行なう必要があるのでしょうか?

保険診療でピロリ菌感染胃炎の除菌治療を行なうためには、内視鏡検査で胃炎の診断を行ない、ピロリ菌検査で感染診断を行なう必要がありますが、ABC検診で、すでにピロリ菌感染診断がなされている場合には、あらためて保険診療でピロリ菌感染診断を行なう必要はありません。

保険請求の症状詳記に、
「1)内視鏡にて胃炎の診断がなされたこと 2)検診でピロリ菌感染が診断されていること」を記載してください。

ピロリ菌感染診断を保険診療で行なう場合に、先立って内視鏡検査で胃炎の診断を行われている必要があることから、ABC検診を先に行ってから、保険診療で内視鏡検査やピロリ菌除菌を行なうことができない、という解釈がひろがっていますが、これらは検診と診療を混同した誤解です。

胃がんリスク検診でピロリ菌感染診断をしてから内視鏡検査をすると、感染診断と内視鏡の順番が逆のため保険で査定されると聞いていますが、本当でしょうか?

平成25年2月21日付の「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の一部改正により混乱が生じており、たくさんご質問をいただいているので整理します。

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「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」

1.対象患者
ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る検査については、以下に掲げる患者のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われる患者に限り算定できる。
 (中略)
⑤内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者
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改訂によって追加された⑤の部分を読まれ、内視鏡検査で胃炎の診断をした後でなければ、ピロリ菌検査はできない、すなわちABC検診でピロリ菌感染を診断してから内視鏡検査を行なうのは、ピロリ菌感染診断と内視鏡検査の順番が逆になるため、保険で認められないのではないか?
という趣旨のご質問が多く寄せられています。

保険診療でのピロリ菌検査は、内視鏡をやって胃炎の診断のついてからであり、スクリーニング検査としてピロリ菌感染診断を先に行なって、陽性であれば内視鏡を行うのは、今のところ認められていません。保険診療でスクリーニング検査は行えないという原則があるからです。

しかし、保険診療ではなく、検診としてABC検診(ピロリ菌感染診断検査)を行い、その結果説明でご本人が「胃がんを心配して」、保険診療で外来受診し、内視鏡検査が行なわれることには、何ら問題はありません。
今回の改訂で追加されたのは、あくまでも保険診療でピロリ菌感染診断検査を行なうための条件が、「内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者」という点です。

ABC検診のE群(HP除菌成功者)への内視鏡検査の方針を教えてください

問診でピロリ菌除菌歴が確認された方に関しては、除菌成功、不成功に関係なく、胃がんハイリスク群として、定期的な内視鏡検査を実施してください。
除菌がうまくいったにもかかわらず、定期的な内視鏡検査をすすめるのは、患者指導上難しい面もありますが、「除菌により胃がんリスクリダクションは期待できるが、未感染者同様の胃がんリスクになるわけではない、実際除菌後の胃がんも少なからず存在する」ことは、受診者にしっかり伝えなくてはなりません。

リスクリダクションの効果を内視鏡検査の実施間隔に反映できるとよいのですが、今のところそれを裏付ける報告はありません。

除菌により胃粘膜がきれいになることで胃がんが発見しやすくなることから、除菌後の胃がんのうち、除菌成功後数年以内での内視鏡検査での発見が多いことも事実です。

今後調査が進めば、ピロリ菌除菌時の年齢や除菌前後の内視鏡所見、ペプシノゲン値、HP抗体価などによって、リスクリダクションの程度を具体的に見積もり、胃がんリスクをHP未感染と同等レベルとしてよい群などを設定することできるのではないかと期待していますが、現状では、E群についてはBCD群同様の胃がんリスクとして逐年、もしくは施設の事情に応じた間隔での内視鏡検査対象としてください。

LG21ヨーグルトの長期摂取は、胃がんリスク検診に影響を与えますか?

LG21ヨーグルトについては、除菌療法を行なう際、除菌3週前から除菌終了までの4週間、LG21を1日2個摂取したら、除菌率が上昇したという報告(東海大学)がありますが、LG21だけを摂取しても、ピロリ菌除菌はできません。

ペプシノゲン値についても、LG21摂取で軽度の改善はありますが、ABC分類の判定に影響が出るほどではありません。

したがって、「影響なし」とお考えいただいて大丈夫です。

胃がんリスク検診を採用した場合、バリウム検診は廃止してもいいのでしょうか?

胃がんリスク検診はあくまで胃がんになる危険度をみる検診で、胃がんを見つける、診断するものではありませんので、従来のバリウムによる胃がん検診の代用にはなりません。

しかし、胃がんリスク検診で、高リスク(BCD群)と診断された方に対する内視鏡検査の体制が整っているのであれば、胃がんリスク検診とバリウム検診の両方を実施する必要はありません。
特に、年齢層の低い職域検診では、一般検診の採血検査と同時に行なえる胃がんリスク検診の導入、バリウム検診の廃止は、費用の面でも、受診者の身体的時間的負担の軽減の点でも、メリットが大きいと考えます。
BCD群の方は、ピロリ菌除菌の対象になりますので、保険診療として内視鏡検査とピロリ菌除菌を行ない、その後定期的な内視鏡精査を継続することができれば、バリウム検診を受ける必要はありません。

内視鏡検査の体制の整っていないところでは、胃がんリスク検診への切り替えは難しいですが、胃がんリスク検診を併用して、従来の全員に対しての逐年一律のバリウム検診を、リスクに応じた、効率的な運用にすべきと考えます。

胃がんリスク検診は何歳から実施できますか?

実施年齢に制限はありませんが、採血検査なので乳幼児にはおすすめしません。

未成年では、ピロリ感染があったとしても胃粘膜萎縮が進んでいることは少ないし、胃がんがある可能性も低いので、ABC検診よりもピロリ菌検査のみ、一番簡便なピロリ尿中抗体を検査し、陽性であれば有リスクとして除菌や内視鏡検査を考慮すればよいと思います。

成人については職域の一般検診や、特定検診の採血検査のタイミングで、ABC検診を実施することをおすすめします。
高齢者、特に後期高齢者世代は、現状ではピロリ菌感染率が高いこと、加齢により免疫応答が低下し感染があってもピロリ抗体が陰性化している可能性があるで、ABC検診は適さない、ABC検診では不十分と思われます。
一度は内視鏡検査を実施し、画像所見からピロリ感染の有無や既往、胃粘膜萎縮を判断したうえで、フォローアップの方針をたてるべきと思います。

タコイボびらんがたくさんできたものを「びらん性胃炎」と思っていましたが、これは間違い でしょうか?

タコいぼびらんがたくさんできていても、ピロリ菌が感染していなければ病理組織には胃炎の所見(炎症細胞浸潤)はないか、わずかです。ですから、「びらん性胃炎」ではなく、「びらん性胃症」というのがより正しいかも知れません。「びらん性胃炎」や「表層性胃炎」という言葉は、今後は使わないようにしましょう。炎症があれば胃炎で、炎症がなければ胃症(gastropathy)です。「表層性胃炎」も「表層性胃症」あるいは「充血性胃症」と呼ぶべきなのかも知れません。

びらんとタコイボびらんについて、タコイボびらんはびらんを起こしたその周囲が浮腫性に盛 り上がったもの、と聞いたことがありますが本当でしょうか?私は昔、びらんは胃潰瘍になりか けのもの、といったニュアンスのことを聞いたことがあります。

タコいぼびらんとピロリ菌感染性胃潰瘍は、病理学的に異なります。タコいぼびらんは、経過観察していても胃潰瘍になりませんので、胃潰瘍の前駆病変ではありません。ただし、ピロリ菌感染性胃潰瘍も発生初期にはびらんの時期があると思います。しかし、ピロリ菌感染がないびらんには炎症細胞の浸潤がないか軽度で、ピロリ菌感染のあるびらんには炎症性細胞浸潤が強くあります。前者がいわゆる「びらん性胃炎」で、後者が「ピロリ菌感染性胃潰瘍の前駆病変かもしれないびらん」です。

タコイボびらん=ピロリ菌陰性は本当でしょうか?

びらんはピロリ菌陽性でも陰性でもおきますので、ピロリ菌とは関係がないということです。タコいぼのように盛り上がったびらんは、ピロリ菌陰性の胃に起きやすいと考えられています。胃炎の京都分類をご参照下さい。

びらん性胃炎、表層性胃炎、鳥肌胃炎 皺壁肥大型胃炎、萎縮性胃炎等すべてをひとくくりに して「慢性胃炎」になるというのは本当でしょうか?

ピロリ菌感染を考慮すると、びらん性胃炎と表層性胃炎はピロリ菌と関係が少なく、他の3者は関連が非常に強いです。後者は胃がん高危険群です。このことをよく理解して胃炎の診断や事後処理をするのであれば問題ないのですが、よく理解せずに使われる場合が多いと思いますので、ピロリ菌感染胃炎疑いのものを慢性胃炎としてひとくくりにする方がよいです。逆に、ピロリ菌感染のないものは、「慢性胃炎」としない方がよいです。ただし、自己免疫性胃炎は除きます。